企業が気を付けるべき雇用契約書作成のポイントを弁護士が解説

次のようなお悩みはございませんか?
  • 自社の雇用契約書で漏れがないのか心配
  • テンプレートの雇用契約書をそのまま使用しているが、自社の雇用形態と合っているのか不安
  • 雇用契約書は特に作成していないが、違法とならないのか心配
  • 労働条件通知書と雇用契約書の2つを従業員に交付しているが、何が違うのかよくわかっておらず心配
  • 給料は総額の記載のみで「残業代含む」と記載しているが、問題ないのか知りたい

雇用契約書のテンプレートをそのまま使用していると、自社の雇用条件とマッチしていないことがあります。特に、残業代の記載が曖昧でトラブルとなることがあります。

また、雇用契約書は記載項目が多く、漏れや問題点をチェックするのも大変です。

この記事では、企業が気を付けるべき雇用契約書作成のポイントを弁護士が解説します。

1. 雇用契約書とは?雇用契約書の意味と作成すべき理由

雇用契約書を作成すべき法的義務はあるのか

雇用契約書とは、使用者と労働者が労働契約の内容を明らかにするための契約書のことです。雇用契約書には、業務内容、就業場所、勤務時間、給与の金額や労働条件などの雇用契約上重要な事項を記載するのが一般的です。
 
実は、このような雇用契約書は、法律上の作成義務自体はありません。

雇用契約書と労働条件通知書の違い

雇用契約書の作成義務がないからといって、使用者から労働者に対して条件を通知しなくてもいいわけではありません。

使用者から労働者への労働条件の明示は法律上義務づけられており、原則として労働条件が記載された書面(労働条件通知書)を交付する必要があります。

雇用契約書と労働条件通知書の違う点をまとめます。

  1. 雇用契約書の作成は義務付けられていないのに対して、労働条件通知書の交付は法律上の義務となっていること
  2. 雇用契約書は双方の署名(もしくは記名)押印が必要なのに対して、労働条件通知書では労働者の署名押印が必要でないこと
雇用契約書と労働条件通知書は、記載内容が被ってきます。そのため、雇用契約書兼労働条件通知書として、書面をまとめて交付するケースが多いです。

労働基準法

(労働条件の明示) 第15条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。

この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

労働基準法施行規則

第5条4項 法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする

ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。

  1. ファクシミリを利用してする送信の方法
  2. 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。以下この号において「電子メール等」という。)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)

結論:雇用契約書はトラブル防止のために作成するべき

雇用契約書自体は、書面の作成義務はありません。また、労働条件通知書と記載内容は被ることから、雇用契約書を作成しない会社様もいます。

しかし、労働条件通知書の交付のみでは、労働条件に関して労働者の承諾が得られているのかはっきりしません。そのため、労働条件に関して後日紛争となるケースもあります。

労働条件を契約書として取り決めることは後日の紛争防止のために重要です。法律上の作成義務がなかったとしても雇用契約書の作成をおすすめします。

2. 雇用契約書に記載すべき項目

雇用契約書は、法律上の作成義務はなく、記載事項の定めもありません。

しかし、雇用契約書は、労働条件通知書とかねて作成することが多いです。

そのため、労働条件通知書の記載義務を前提に雇用契約書に記載すべき項目を整理します。

絶対的明示事項

絶対的明示事項とは、労働条件通知書に必ず記載しないといけない項目のことです。具体的には、以下のとおりです(労働基準法施行規則5条1項)。

絶対的明示事項は原則として労働者に書面で交付する必要があります。

共通

  • 労働契約の期間
  • 有期雇用契約の場合は、契約を更新する場合の基準に関する事項
  • 就業の場所と変更範囲の記載
  • 従事すべき業務内容と変更範囲の記載
  • 始業及び終業の時刻
  • 所定労働時間を超える労働の有無
  • 休憩時間
  • 休日
  • 休暇
  • 労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
  • 賃金の決定、計算及び支払の方法並びに昇給に関する事項
  • 賃金の締切り及び支払の時期
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

参考:労働基準法施行規則5条1項1から4号、5条3項

有期雇用契約、短時間労働者の場合の追加の絶対的明示事項

有期雇用契約とは、使用者と期間の定めのある雇用契約を締結している労働者のことをいいます。たとえば、契約社員です。

短時間労働者とは、1週間の所定労働時間が同一事業主に雇用される通常の労働者と比較して短い労働者のことです。たとえば、パート社員です。

有期雇用契約及び短時間労働者の場合は、別途以下の事項を労働条件通知書に記載する必要があります。

  • 昇給の有無
  • 退職手当の有無
  • 賞与の有無
  • 雇用管理の改善等に関する事項にかかる相談窓口

参考:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律6条1項

参考:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律施行規則2条1項

相対的明示事項

相対的明示事項とは、該当する制度があるときは明示しないといけない項目のことです。具体的には以下のとおりです。

  • 退職手当の定めが適用される労働者の範囲
  • 退職手当の決定、計算及び支払の方法
  • 退職手当の支払の時期
  • 臨時に支払われる賃金、賞与、精勤手当、勤続手当、奨励加給、能率手当について
  • 最低賃金額に関する事項
  • 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
  • 安全及び衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰及び制裁に関する事項
  • 休職に関する事項

相対的明示事項は、絶対的明示事項と異なり、書面で交付する義務まではありません。口頭での説明でも足りるとされています。

しかし、トラブル回避のためには書面で交付することが望ましいといえるでしょう。

オリジナルチェックリスト

労働条件通知書に記載すべき内容は多岐にわたります。

チェックリストを作成したので、ダウンロード及び印刷のうえで漏れがないかご確認ください。

チェックリスト:労働条件通知書に記載が必要な項目一覧

厚労省が準備しているテンプレートを参考に労働条件通知書を作成するのもおすすめです。

3. 企業が雇用契約書を作成するときに気を付けるべきポイント3選

ポイント①:雇用契約書に必要な記載事項を網羅する

労働条件通知書と雇用契約書を兼ねる場合は、絶対的明示事項の漏れがないかを確認しましょう。

相対的明示事項についても漏れがないかを確認するのが望ましいです。

漏れがないかはチェックリストを使用することが効率的です。

以下のチェックリストをダウンロードのうえでお使いください。

チェックリスト:労働条件通知書に記載が必要な項目一覧

必要な記載事項の中でも重要なポイントを解説します。

労働契約の期間について

雇用契約の期間の定めの有無でルールが変わってくるので、契約期間を明記することは重要です。

試用期間を設ける場合は、契約期間のところで記載しておくとよいでしょう。

記載例は次のとおりです。

<条項例>期間の定めのない雇用契約・試用期間を設ける場合
  1. 本契約は、雇用期間の定めのない契約とする。
  2. 就業開始日の令和〇年〇月〇日から令和〇年〇月〇日までの3カ月は試用期間とする。

就業の場所、従事すべき業務内容と変更範囲の記載

雇用契約を締結する際に、雇入れ直後の就業場所・業務内容に加えて、変更の範囲についても明示することが必要です。
記載例は次のとおりです。

就業場所 (雇入れ直後)本社 (変更の範囲)本社及びすべての支店
業務内容 (雇入れ直後)法人営業 (変更の範囲)会社内でのすべての業務

始業及び終業の時刻、休憩時間、所定労働時間を超える労働の有無

始業・終業の時刻及び休憩時間は、もっとも基本的な労働条件といえます。そのため、雇用契約書にきちんと記載することが重要です。

<条項例>
  1. 就業時間 始業午前〇時 終業午後〇時
  2. 休憩時間 〇分
  3. 所定時間外労働の有無( 有 )

賃金の決定、計算及び支払の方法

賃金の決定・計算方法は、雇用契約書で記載すべき事項の中でも特に重要です。

たとえば、固定残業代等の記載が曖昧だと、後日労働者との間で未払残業代等の紛争となるケースがあるので要注意です。

具体的な条項例は次のとおりです。

賃金は以下のとおりとする。詳細については就業規則〇条による。

  1. 基本賃金
    • イ 月給(円)
    • ロ 日給(円)
    • ハ 時間給(円)
    • ニ 出来高給(基本単価円、保障給円)
  2. 諸手当の額又は計算方法
    • 手当円 /計算方法:
    • 手当円 /計算方法:
    • 手当円 /計算方法:
    • 手当円 /計算方法:
  3. 所定時間外、休日又は深夜労働に対して支払われる割増賃金率
    • イ 所定時間外、法定超 月60時間以内()%
      月60時間超)%
      所定超)%
    • ロ 休日 法定休日)%、法定外休日)%
    • ハ 深夜)%

賃金制度は、月給制、日給制、時給制、出来高払制など様々な制度があります。まず、どの制度かを明確にしましょう。

そのうえで、諸手当がどのような趣旨・計算方法かを明記することが重要です。

ポイント②:賃金制度・諸手当を明記する。就業規則の内容と一致させる

雇用契約書の手当の記載が曖昧で起こるトラブル

雇用契約書で諸手当の趣旨・計算方法を明記することは重要です。

たとえば、次のような記載だと労働者と残業代をめぐって争いになることがあります。

  • 月給 30万円(月30時間分の残業代を含む)
上記のようなケースでは、基本給がいくらで、月30時間分に対応する残業代がいくらなのかがまったくわかりません。

これでは、使用者と労働者の認識の相違が発生して、使用が残業代を支払ったつもりでも労働者から残業代の請求をされる可能性があります。

ちなみに、このケースで労働者から未払残業代の裁判を起こされると会社側は負ける可能性が高いです。

固定残業代を有効にするためには、基本給と固定残業代を明確に区分する必要があります。
たとえば、次のような記載です。

  • 基本給 25万円
  • 固定残業手当 5万円(月30時間分の時間外手当として支給)

※固定残業手当5万円分が30時間の時間外手当分に実際になるかは、各社で実際に計算することが必要ですが、わかりやすくするため本記事では概算で5万円と記載しています。

雇用契約書と就業規則の賃金制度の不一致が原因で起こるトラブル

雇用契約書に賃金制度・諸手当を明記することは非常に重要です。また、雇用契約書と就業規則(賃金規程)の内容と一致させることも非常に重要です。

たとえば、次のようなケースだと、労働者と賃金制度をめぐって争いになる可能性があります。

  • 雇用契約書には月給制と記載
  • 就業規則(賃金規程)には日給制と記載
  • 給与明細をみても支払い内訳が労働者に分かりにくい
  • 会社は、日給制で残業代支払い
  • 労働者は、月給制で残業代請求

会社がインターネットなどから雇用契約書のひな型をダウンロードしてそのまま使用している場合などに発生する可能性があります。

日給制と月給制では残業代の基礎賃金の計算方法も異なります。

会社としては、日給制のつもりで残業代の計算を行い支給していたとしても、全体として月給制となってしまい、未払残業代が発生する可能性があります。

そのため、雇用契約書に記載の賃金制度と就業規則に記載の賃金制度は一致させることが望ましいです。

ポイント③:勤務場所・業務内容を限定する内容となっていないかのチェック

雇用契約書で勤務場所・業務内容の範囲を限定したにもかかわらず、範囲外の配置転換を一方的に行うことは違法となります。

配置転換の裁判例(参考:令和 6年 4月26日最高裁判所判決)

次のようなケースで、使用者の労働者に対する配置転換命令は適法でしょうか?

  • 労働者と使用者との間に当該労働者の職種と業務内容を特定のものに限定する旨の合意があった
  • 使用者が労働者に対して同意を得ることなく、異なる職種等への配置転換命令をした

上記のケースでは、配置転換命令を行うことは違法となる可能性が高いです。

最高裁判所は、職種や業務内容を限定した場合の配置転換命令について次のような考え方を示しています。

「労働者と使用者との間に当該労働者の職種や業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合には、使用者は、当該労働者に対し、その個別的同意なしに当該同意に反する配置転換を命ずる権限を有しないと解される」
この裁判例からも分かるとおり、雇用契約書等で勤務場所や業務内容を限定するような記載があると、後日配置転換命令が違法となる可能性があります。

もちろん雇用契約書の内容だけで判断されるわけではありませんが、雇用契約書の記載は重要な考慮要素です。

そのため、採用した後に配置転換命令を行う可能性がある場合は、その旨を明記しておくことが望ましいです。

令和6年4月の労働条件明示のルールの改正

令和6年4月1日施行の労働基準法施行規則の改正により、就業の場所と業務内容の労働条件明示について次のとおりルールが追加されました。

労働基準法施行規則5条1項1の3

【改正前】就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
【改正後】就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。

つまり、法改正により、就業の場所と業務内容の変更の範囲まで記載する必要があるということです。

参考:厚生労働省 令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます

記載例

勤務場所・業務内容の変更の可能性があり、将来的に配置転換命令も行う可能性がある場合は以下のとおり広めに規定する方法があります。

従事する業務内容の変更、全国転勤可能性がある場合は、「会社の定める就業場所」「会社の定める業務」と広く記載することも可能です。

配置転換等の細かなルールについては就業規則で定めておきましょう。

<条項例>従事する業務内容の変更及び全国転勤の可能性がある場合
  1. 就業場所及び業務内容は以下のとおりとする。
    • 就業場所 (雇入れ直後)〇営業所 (変更の範囲)会社の定める就業場所
    • 業務内容 (雇入れ直後)法人営業 (変更の範囲)会社の定める業務
  2. 使用者は、業務上必要がある場合に労働者に対して就業する場所、業務の変更を命じることができる。
  3. 労働者は、使用者より異動を命じられた場合は、指定された日までに新しい就業場所・業務等に着任しなければいけない。

4. まとめ:雇用契約書の作成は重要です。疑問点がある方は弁護士にご相談ください

  • 雇用契約書を作成すべき法律上の義務はありませんが、労働者との紛争防止のためには作成することが望ましいです。
  • 労働条件として労働者に明示すべき内容は法律で決まっています。チェックリストを活用するなどして漏れのないように説明をしましょう。

企業が雇用契約書を作成するときに特に注意すべき点は以下の3つです。

  1. 雇用契約書に必要な記載事項を網羅する
  2. 賃金制度・諸手当を明記する。就業規則の内容と一致させる
  3. 勤務場所・業務内容を限定する内容となっていないかチェックする

貴社の雇用契約書に問題がないか等を無料相談の中でチェックさせていただきます。お気軽にお問い合わせください。

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監修者
よつば総合法律事務所 
辻 悠祐

プロフィール

大阪弁護士会所属弁護士。よつば総合法律事務所大阪事務所所長。企業法務チームに所属。インターネット上の誹謗中傷の対応、企業及びクリニックの顧問業務、使用者側の労働問題などを担当している。

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